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2025年10月27日
要約
- 変化する市場で動かない企業は取り残され、緩やかな衰退に向かう。
 - 「顧客軸×事業軸」で4パターンを整理し、特に非日系市場や新規事業への挑戦が鍵となる。
 - 現状維持ではなく、変革や再投資で新たな成長の道を切り開くことが重要。
 
緩やかな衰退への警鐘
「現状維持は衰退だ」、という有名な言葉があります 。世の中のニーズや人々のあり方が常に変化していく中で、自社だけが現状にとどまろうとすれば時代から取り残され、すなわち緩やかな衰退に向かうという警鐘です。タイに進出する日系企業も、それぞれ何らかの環境変化に直面しているはずです。近年タイにおける日系企業のプレゼンス低下を指摘する声もあります。
4つの勝ち残り戦略
では、日系企業がタイで勝ち残るためには具体的にどう変化すべきでしょうか。ポイントは「顧客軸(日系 / 非日系)×事業軸(既存 / 新規)」のマトリクスで戦略オプションを整理することです。顧客層を従来通り日系企業(在タイ日系企業や日系取引先)に限定するのか、あるいはタイ現地を含む非日系顧客にも拡大するのか。また、提供する事業=製品やサービスを現在の延長線上で続けるのか、新たな領域に踏み出すのか——この2軸の組み合わせで4つの戦略パターンが導き出せます(一般的な成長戦略フレームワークで言えば「市場浸透」「新規市場開拓」「新製品開発」「多角化」の4象限に相当します)。
具体的には以下の4パターンです:
1. 日系顧客 × 既存事業 – (市場浸透戦略)
従来通り日系企業を主要顧客とし、現在の事業ドメインでビジネスを継続する戦略です。多くの在タイ日系企業が採用してきたパターンですが、市場規模が限られるため成長余地も限定的です。
2. 日系顧客 × 新規事業 – (新製品開発戦略)
日系企業(既存顧客基盤または新たな産業における日系顧客)に対し、新たな製品・サービスや事業モデルを開発して提供する戦略です。既存取引先との信頼関係を活かせますが、新規事業開発のための投資負担やリスクテイクが求められます。
3. 非日系顧客 × 既存事業 – (新規市場開拓戦略)
自社の強みや既存製品を、タイをはじめとする非日系(ローカル)顧客や第三国市場に展開する戦略です。新たな市場で売上の裾野を広げるアプローチですが、言語・商習慣の壁を越えた現地対応力が求められます。
4. 非日系顧客 × 新規事業 – (多角化戦略)
非日系の新たな顧客層に対し、新規事業で挑む戦略です。最もチャレンジングな選択肢ですが、成功すれば事業ポートフォリオを飛躍的に拡大でき、真のブレイクスルーを実現し得ます。
多くが「日系×既存」にとどまる現実
現状、在タイ日系企業の中には上記①「日系×既存」パターンにとどまっている企業もあるのではないでしょうか。主な顧客を日本企業に絞り、日本人主体の営業で成長してきた企業が依然として多く見受けられます 。このモデルは確立された日系取引関係を基盤に効率的に事業展開できる利点がありますが、日系顧客中心の市場は限定的で成長の天井につきあたりやすい面があります。
さらに近年は、同じ①の土俵(既存事業×日系顧客)の中でも競争が激化しています。中国企業も含む非日系の競合が勢いを増しています 。現状維持に甘んじていれば、こうした競合にシェアを奪われ 「緩やかな衰退」 に陥るリスクが高まるでしょう。成長を目指すなら②「日系×新規」、③「非日系×既存」、④「非日系×新規」に目を向けることが不可欠です。自社の強みを活かしつつ新たな顧客層や事業領域に踏み出すことで、初めて次の成長曲線を描くことができます。幸いタイという市場はASEANのハブとして潜在力が大きく、視点を変えればチャンスも多分に存在します。今まで踏み出していなかった領域への挑戦こそが、停滞を打破する鍵となるでしょう。
「もがく」か「再投資で転進」か
市場環境が変化する中で現状維持を続けることは、例えるなら沈みゆく船で水をかき出し続けるようなものです。また、成長のためにさまざまな手立てを打つことは簡単ではありませんし、成功するとも限りません。現地化、非日系戦略の重要性を理解していても結果を出すのに苦労している、という話はよく聞かれる話です。さらに、そもそもタイの市場で「もがき、成長を追うこと」が正解とも限りません。思い切ってリソースを他の国やエリアに再投資し事業の転進を図ることも経営の一つの解となります。究極的にはこの二択に向き合うことが求められています。一般的な正解は存在せず、それぞれの企業にとっての特殊解を導き出すことが重要です。
変化を止めない企業こそが勝ち残る
最後にシンプルにまとめるならば、変化を止めない企業こそが勝ち残る、ということでしょう。外部環境や顧客ニーズが変わり続ける以上、自らも変わり続ける企業だけが長期的に生き残り、成長を遂げるのです。現状に甘んじるのではなく、自ら変革を起こし続ける企業こそが、勝ち残ることができる、と言えるでしょう。
JMS Thailandでは、これまで多くの日系企業の企業変革を支援してきました。経営戦略や企業経営に関するご相談がありましたら、どうぞお気軽にお声がけください。

