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要約
- 日系企業の海外拠点では、日本人駐在員の役割が「現場の実務担当」から「組織を支えるマネジメント・ナビゲーター」へと変化している。
- 駐在員の増員が難しくなる中、現地スタッフへの権限委譲や組織の現地化がより重要になっている。
- こうした変化に対応するためには、本社・現地スタッフ・駐在員の三位一体による支援体制が不可欠である。
現地法人立ち上げ初期
当社JMS Thailandもそうでしたが、現地法人を設立した初期段階では、日本人駐在員は1名、という会社も少なくありません。現地責任者として営業から管理部門まで全ての業務を自ら担い、文字通り「何でも屋」として奮闘し、例えば、朝はお客様訪問や取引先との商談に出かけ、午後にはオフィスに戻って経理処理や総務的な事務作業をこなす、といった具合です。一人で広範な業務を兼務するこのワンマン体制のおかげで、立ち上げ当初は機動力を発揮できた、ということもあるでしょう。しかし、組織が拡大しビジネスが本格化するにつれ、一人ですべてを抱えるやり方には徐々に限界が生じてくるものです。 また、一人に業務が集中することで、現地スタッフの育成や将来の戦略検討にまで手が回らないという弊害も見えてきます。そんな状態とは逆に、当初は臨時的な応援の日本人がいた会社では、ものごとが落ち着いた後、今度は日本人が減らされていく、ということもあるでしょう。
人員増では解決できない時代に
事業が成長する中で、追加の業務負荷に対応するため日本人駐在員を単純に増員するという手段も、かつては選択肢の一つでした。しかし昨今では、派遣コストの高騰や適任者の確保難などもあり、安易に駐在員を増やすことは現実的ではなくなっています。むしろ限られた駐在リソースで現地運営を回す工夫が求められており、この課題は当社だけでなく多くの日系企業に共通していると言えるでしょう。かつてのように「困ったら日本から人員増強」の発想は通用せず、新たな体制づくりが不可欠となりました。特に日本国内の人手不足状況は根強く、駐在員の確保は以前よりも難しくなっていることは間違いありません。
現地スタッフへの委譲と駐在員の新たな役割
こうした状況を踏まえ、現地スタッフの積極活用が重要になってきています。駐在員が自ら手を動かすのではなく、現地メンバーに任せるべきは任せ、彼らを支援・監督する立場に回ることが重要になります。現在、概ね多くの駐在員に求められる主な役割は次の通りです。
権限委譲と人材育成:これまで日本人駐在員が担っていた業務を現地スタッフに段階的に委ね、彼らが自主的に判断・行動できるよう育成。
品質・業務プロセスの監督:成果物や業務プロセスの品質を確認・管理し、本社の基準やコンプライアンスを満たしているかを監督。
アドバイザーとしての助言:専門知見を活かし、現地チームや経営層に対して適切なアドバイスを提供します。課題の発見や重要な意思決定の際に助言。
橋渡し・ファシリテーター:日本本社と現地との間、あるいは日本人顧客と現地スタッフとの間で、円滑なコミュニケーションと相互理解を促進。
日系営業または英語での営業業務では主要な役割を担う。かつての駐在員が「現場の切り盛り役」だったとすれば、今や「現場を陰で支えるナビゲーター」のような存在へと変わりつつあります。別の言い方をすれば、プレイングマネージャーから経営者へ、ということかもしれません。権限委譲によって現地チームの主体性を引き出しつつ、必要な舵取りとバックアップを行う――これが 現代の駐在員に求められるスタイル と言えるでしょう。
現地化と日本人需要の減少
さらに、大局的に見ても 日本人駐在員に対するニーズ自体が徐々に変化 しています。依然として、日本語対応や日本の商習慣への精通が求められる領域(例えば日本人顧客対応や本社向けの報告業務)では、日本人駐在員の存在意義はあります。しかし、それら「日本人でなければできない」業務領域は縮小傾向にあります。現地採用のスタッフが日本語や日本的な品質基準を習得し、本社担当者と直接やり取りを担うケースも増えてきました。
一方、取引先や顧客企業側でも 現地化の流れ が進んでいます。例えば、現地法人の購買担当や経営層など、ビジネス上の重要な意思決定者が日本人ではなく現地スタッフということが今や珍しくありません。かつては「お互い日系同士=日本人同士」で話が早かった取引も、今では駐在員がタイ人マネージャーと商談するといった場面が当たり前になりました。このように自社内だけでなくビジネス環境全体が変化しているため、駐在員も現地の文化や商習慣を理解し、ローカルの人脈を築く力がますます重要となっています。
現地化と日本人需要の減少
人材面でも、駐在員の層に変化 が見られます。従来は海外駐在といえば一定の管理職経験を積んだ中堅クラスが担うケースが多くありました。それが最近では、非常に経験豊富な長期駐在者 と、若手で経験の浅い駐在者 という両極端が目立つように感じられます。前者は海外勤務歴が長く現地事情に通じたベテラン層、後者は20代後半~30代前半で初めて海外に赴任するような層です。おそらく背景には、企業が実績豊富な人材を引き続き海外で重用する一方、将来を見据えて若手社員を早期に登用しようとしていることが考えられます。その結果、従来海外赴任の主流であった中堅クラスの派遣が相対的に減少し、世代間のギャップが生まれているのかもしれません。
特に後者の 若手駐在員 については、その派遣プロセスにも課題があります。十分な引き継ぎ期間がないまま前任者と入れ替わったり、語学研修・異文化トレーニングが最低限に留まった状態で赴任したり、さらには管理職経験のないまま現地組織のマネジメントを任されるケースも散見されます。準備不足のまま現地に送り出された駐在員は、右も左も分からない異国の地で手探りでマネジメントを学ばざるを得ず、その精神的プレッシャーは非常に大きいでしょう。
前述の日本での人手不足と同様ですが、日本での働き方改革、ライフワークバランスの重視や共働き、高齢化に伴う親族の介護なども、駐在員確保の壁になっています。かつては海外でバリバリ働いていた30代は今や共働きでなかなか海外転勤ができず、40-50代は自身の親の介護のために日本を離れられない、と言った状況もあるようです。
増す負担と求められる本社・現地からの支援
こうした変化の中で、駐在員にのしかかる負担はむしろ増大 しています。権限委譲が進んだからといって、駐在員から責任が無くなるわけではありません。彼らは本社とのパイプ役や現地チームのまとめ役として、多岐にわたる責務を負い続けます。経験や準備が不足した状態であれば、業務習得や組織マネジメントに人一倍の努力が必要となり、その肉体的・精神的負荷は決して軽くありません。
だからこそ今、本社と現地双方からの手厚いサポート が従来にも増して重要になっています。本社側は駐在員に対し明確なビジョンと方針を示し、必要な研修機会や情報提供を行うことが求められます。また現地法人側でも、ローカルスタッフが協力して駐在員を支え、現地の事情を教え合う風土を醸成することが欠かせません。駐在員・現地スタッフ・本社が三位一体となり同じゴールを目指すことで、初めて真の現地化とビジネス成果が実現すると言えるでしょう。逆に、こうした支援が欠如すれば、本社と現場の間で認識のズレが生じたり、駐在員が孤立して燃え尽きてしまったりするリスクもあります。
JMS Thailandによる伴走支援
駐在員の役割がこのように変容する中、当社JMS Thailandとしてもその変化を支えるべく動いています。具体的には、駐在員向けのマネジメント研修や現地スタッフとの共同プロジェクト運営に関するコンサルティング支援などを提供しています。異文化マネジメントや現地組織との協働のポイントを習得いただくことで、駐在員の皆様が持てる力を十分に発揮し、現地チームとともに成果を創出できるよう私たちも伴走いたします。
変わりゆく駐在員の役割――それは企業の海外展開における新たなステージと言えます。駐在員個人の奮闘だけでなく、組織全体でこの役割変化を支え、現地の力を最大限に引き出していくことが、これからのグローバルビジネス成功の鍵となるでしょう。当社も現地法人の一員として、この変革に寄り添い、皆様の一助となるべく努めてまいります。

