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2025年11月18日


要約

  • 現地化は、権限委譲と人材育成によって現地スタッフが主体的に運営できる体制をつくることを指す。
  • 省人化は、自動化やデジタル化で人手依存を減らし、効率的で安定した運営を実現する手法である。
  • 現地化成功の鍵は、人と技術をバランスよく活用し、自律的に運営できる仕組みを整えることである。

現地化とは何か、その意義

「現地化」とは、日本企業が海外拠点を運営する際に、経営や業務の主体を現地スタッフに移し、組織を自立的に機能させることを指します。具体的には、これまで日本人駐在員が担ってきた業務や意思決定を、現地採用の人材に委ねていくことです。現地化を進める意義は大きく、現地の事情をよく知る者が意思決定し、現地スタッフの士気が向上し、現地法人の持続的な発展を可能にします。現地化は海外拠点の持続的成長と競争力強化に不可欠なプロセスと言えるでしょう。

もっとも、現地化の推進には本社と現地との間でビジョンや価値観を共有し、信頼関係を築くことが前提となります。その上で、現地スタッフが十分に力を発揮できる環境整備が必要です。以下では、現地化推進の代表的な王道のアプローチである権限委譲と人材育成を中心としたもの、そしてもう一つの選択肢として注目したい省人化について論じます。


権限委譲と人材育成による「現地化」の王道

海外拠点の現地化を語るとき、まず思い浮かぶのは本社や日本人駐在員から権限を委譲し、現地スタッフを育成する王道の手法です。これは、経営判断や業務運営の決定権限を徐々に現地の経営陣や従業員に移し、彼らが主体的に判断・行動できるようにするプロセスです。その際には、業務手順やノウハウをマニュアル整備によって形式知化し、体系的な教育・研修プログラムを通じて現地スタッフに習得させることが重要となります。属人的な知見に頼るのではなく、手順書やルールに基づいて誰もが一定水準の仕事ができる環境を整えることで、特定の個人に依存しない安定運営が可能になります。

このアプローチは、地道な権限移譲と組織・人材育成の道と言えます。日本人駐在員が長年培った経験やノウハウを現地メンバーに伝承し、彼らがそれを再現・発展できるよう支援することが肝要です。例えば間接部門であれば、総務・経理・人事といったバックオフィス業務を現地スタッフが主導できるように権限を委ねます。製造部門でも、生産管理や品質管理の領域で現地の監督者・技術者が中心的役割を果たせるよう、OJTや研修を通じて育成します。

この王道アプローチのメリットは、現地スタッフの成長とエンゲージメント向上です。自ら意思決定し責任を負う経験を積むことで、現地の人材は更に力を伸ばし、組織へのコミットメントも高まります。また、本社から見ても優秀な人材を発掘・登用する機会となり、グローバル経営人材の育成につながります。もっとも、権限委譲には本社側の腹づもり(覚悟)と適切なフォローが欠かせません。判断ミスや一時的な非効率が生じる可能性も踏まえた上で、現地に任せて見守る度量が求められます。こうした人を信じ、人を育てる姿勢こそが現地化成功の王道であり、海外事業を長期的に発展させる土台となるのです。


別の選択肢:「省人化」も現地化の一形態

上述のように、人材育成を通じた現地化は王道ですが、別のアプローチとして「省人化」にも注目すべきです。省人化とは業務の効率を高めつつ必要な人手を減らす取り組みを指し、自動化技術や機械化の導入によって少人数でも安定した運営を実現しようとするものです。例えば、これまで人手に頼っていた作業をIoT機器やRPA(Robotic Process Automation)、AI、ロボットなどで代替できれば、現地スタッフの手を煩わせずに業務が回せる部分が増えます。その結果、属人的な職人芸に頼らずとも品質や生産性を維持でき、現地拠点の運営はそもそも「人に依存しない仕組み」へと近づきます。機械化・自動化を通じて業務そのものを簡素化・標準化できれば、担当者が替わっても運営に支障をきたしにくくなり、ひいては現地スタッフへの引き継ぎ負荷や育成コストを軽減することが可能です。

省人化は現地化の一形態とも言えます。というのも、機械化・デジタル化の投資によって人手への依存度を下げることは、結果的に「現地拠点が自律的・安定的に運営できる体制を整える」ことに他ならないからです。現地化の目的は最終的に、現場が本社の支援なしでも一定の品質・生産性で動き続けることにあります。その目的に照らせば、人であれ機械であれ「使えるものは使う」発想で、再現性の高い仕組みを構築するのは極めて合理的な戦略です。


省人化のメリット:人への依存課題の軽減と戦略的な人材活用

省人化を推進することにより得られるメリットは大きく二つあります。一つは、「人」に起因するリスクの低減です。業務が自動化され標準化されれば、特定の個人の熟練や暗黙知に頼る場面が減り、引継ぎや人材流出に伴うダメージが小さくなります。属人的な業務を放置すると、担当者不在時に業務が止まったり、退職によってノウハウが失われたりするリスクがあります。しかし自動化により属人化を排し人に依存しない仕組みができれば、業務継続性は飛躍的に高まります。例えばバックオフィスであれば、経理処理やレポート作成をRPAで自動実行することで担当者不在時でも処理が滞らないようにできます。製造現場でも、検品作業を画像認識AIに任せれば熟練工の勘に頼らず品質検査を安定化できます。このように、省人化は業務伝承や人材育成に伴う負荷を和らげ、離職による影響を緩和する手段となり得ます。

二つ目のメリットは、人材の戦略的な配置転換が可能になることです。機械やソフトウェアに任せられる定型的な作業が減れば、その分人間の労働力をより付加価値の高い業務に振り向けることができます。現地スタッフには単純作業ではなく、創造性や判断力を要する業務、対人折衝や戦略立案などに注力してもらうほうが、生産性向上につながります。限られた人員で効率よく回る職場を作ることは、昨今ますます重要性を増しています。省人化は決して「人を信頼しないから機械に任せる」という消極策ではなく、人的資源を最適配置するための前向きな選択肢なのです。投資対効果が見込める範囲で自動化・機械化を導入し、人が本来担うべき高度な業務に集中できるようにすること――これこそが戦略的人事の観点からも理に適っています。


間接部門と製造部門、双方での現地化と省人化

現地化と省人化の考え方は、間接部門(バックオフィス)と製造部門(現場オペレーション)の両方に適用できます。間接部門では、従来日本人駐在者が管理していた経理・財務、人事、調達、ITといった機能を現地スタッフへ委譲し、彼らが主体的にマネジメントできる体制を整えることが現地化の目標となります。同時に、省人化の観点からは、各種申請・承認業務の電子化、RPAによる定型報告書作成の自動化、データ集計業務のシステム化などにより、人手を介さずに処理できる業務範囲を拡大することが可能です。これにより、バックオフィス業務は効率化しつつ属人性が薄まり、現地スタッフはより戦略的な業務に時間を振り向けられるようになります。

製造部門においても、現地化の基本はライン管理者や技術者として現地スタッフを育成し、日々の生産計画や品質判断を彼らが主導できるようにすることです。そのために作業標準の整備や現場OJTによる技能伝承が行われます。一方で省人化の取り組みとして、生産ラインへの自動機・ロボットの導入、製造データのIoTモニタリングによる見える化、AIによる検品や予知保全システムの活用などが考えられます。こうした技術投資は、人手不足への対応と品質・安全性の向上に寄与し、少人数でも回る強靭な生産体制を構築します。製造現場では技能伝承が大きな課題になりがちですが、自動化によって「誰でも一定レベルの作業ができる」環境を作れば、ベテラン退職の影響も最小限に留められるでしょう。

このように間接・製造を問わず、現地化(人材活用)と省人化(技術活用)は補完的な関係にあります。どちらか一方だけに偏るのではなく、人と技術のベストミックスを追求することが重要です。現地スタッフの育成により高度な判断・対応は任せつつ、定型的な部分は極力システムや機械に任せる——そのバランスを見極めることが、両部門における生産性向上と安定運営のカギとなります。


結論:現地化推進に向けた両輪の活用

日本本社およびタイ現地法人の経営層に向けて強調したいのは、現地化の推進において「人」と「技術」の両輪を戦略的に活用すべきという点です。現地スタッフへの権限委譲と人材育成は、組織の自立性を高め、現地の知見や多様性を経営に取り込む王道の策です。一方で、機械化・自動化による省人化は、人材不足やノウハウ流出リスクに対する有力な解決策であり、現地拠点の生産性とレジリエンスを高める手段でもあります。前者が「人を信じ、任せる」現地化だとすれば、後者は「仕組みに任せ、人を活かす」現地化と言えるでしょう。

重要なのは、これら二つのアプローチを対立するものと捉えないことです。現地化の本質的な目的は、海外拠点が本社に依存せず自律的に価値を生み出せるようにすることにあります。その目的達成のためであれば、人による運営体制の構築も、機械による自動化も、いずれも価値ある手段です。むしろ、人にしかできないことには人を配し、人でなくてもできることにはテクノロジーを配するという最適配置の発想こそ、これからの競争環境下で求められる現地経営戦略ではないでしょうか。

現地化の道程においては、「人材頼み」だけでも「テクノロジー頼み」だけでも不十分です。人的資源と技術資源の双方を最大限に活用し、互いの弱点を補完し合うことで、初めて生産性の高い強靭な組織が実現します。権限委譲と省人化という二つの選択肢をバランスよく組み合わせ、現地法人が主体性と効率性を兼ね備えた運営を行えるよう、本社と現地が一丸となって取り組んでいきましょう。それこそが、ポストコロナ時代の変化に耐えうる持続可能なグローバル経営モデルにつながるはずです。